将棋駒とラスクの職人技に想う

わが子が久しぶりにボードゲームを出してきた。オセロや囲碁など何種類かのテーブルボードゲームだ。

きっかけは「サザエさん」。波平さんとマスオさんが縁側で楽しげに将棋を打っていたシーンだを見て、思い立ったかのようにほこりにまみれたテーブルボードゲームセットを持ってきたのだ。

 

そこで将棋を出してきたのだが、残念ながら私は将棋のルールが全くわからない。やったことがないのだ。
そこでそこそこルールがわかる私の父、わが子にとってはじぃじに教えてもらいながら将棋に興じ始めた。

山形市の北側に隣接する人口6万3000人の天童市。ここは、全国一の将棋駒産地である。
そういえば昔はどの家にも必ず「福を招く縁起のよい駒」として有名な左馬のやたら重い置物が飾られてあった。

それくらい日常の中に将棋駒は身近にあったのだが、この将棋駒の製造が天童で始まったのは、江戸時代末期までさかのぼる。当時天童を治めていた天童織田藩が、藩の困窮した財政を救済するべく、家臣に将棋駒の製作を積極的に奨励したそう。

家臣に内職させるほど貧窮していたという状況も大変嘆かわしいことだが、当時は将棋も戦術を練る競技であるので、武士に将棋駒の製造を奨励することはそれほど彼らのプライドを傷つけることのものでもなかったようだ。

一見するとどの駒も同じように見えるが、その繊細な仕事は細部までこだわっている。駒に書かれた文字もその一つ。昔は駒に筆を直接入れる「書き駒」が主流だったが、現在は「押し駒」「書き駒」「彫り駒」「彫り埋め駒」「盛り上げ駒」など5種類があり、大衆駒から中高級駒まであらゆる駒を作る生産地となっている。

さらに天童の将棋駒は160年に及ぶその歴史の中で、生産規模をただ拡大させただけでなく、地域に将棋文化の伝承と普及に努めてきた。
例えば「子ども将棋大会」や「全国中学生選抜将棋選手権大会」などを市内で開催しているし、桜の咲く季節には桜まつりに合わせて鎧兜に身を包んだ武者たちが将棋の駒に扮し、プロ棋士が対極する「人間将棋」が開催され毎年県外から多くの将棋ファンが詰め掛けるのだ。

そんな将棋愛は街のいたるところで感じることもできる。
例えば公園には過去に対戦したプロ棋士の対局のワンシーンがオブジェとして点在していたり、足元をみれば歩道も対局の一面、なんと電柱までもが将棋仕様だ。

以前将棋好きなサラリーマンがこの街に点在する将棋に真剣になってしまい、大事な会議に遅れてしまった、という笑い話があるほどだ。

誇りとプライドを持って伝統を未来へつなげる伝統工芸士と呼ばれる将棋駒の作り手たち。
将棋駒の魅力は駒木地に現れる木目の表情。その最たるものは、木の宝石と称されるツゲの木目で、最高級品の盛り上げ駒などに使用されるという。さらに日本の伝統美といえる洗練された書体の数々だ。

書体の数は150ほどあると言われているが、それをひとつひとつ魂を込めて作っていることを想像するだけで、この小さな駒に込められた思いと無限の芸術性を感じずにはいられない。

職人のこだわりと誇りという点で言えばシベールのラスクも然りだ。ラスクに一番合ったラスクのためのフランスパンは、小麦粉と山形のおいしい水、熟練した職人によって、その日の天候や気温、湿度を見極め発酵をコントロールしている。焼く前にパンに切り込み(クープ)を入れるのは職人による一本一本の根気のいる作業だ。

すべては美味しいものを美味しいタイミングでお客様に届けるため。すべてはその人の手にしっくりと馴染む駒をつくるため。
一括大量生産・工業製品で均一・均質なものを好む現代で、職人の手作業により同じものでも1つ1つ違いがあることや、使いこむことにより生まれる道具の変化というのも新鮮な魅力として感じて欲しいと思う。

わが子にもホンモノを感じる機会をたくさん与えてあげたいと、ちょっぴりチープなこの将棋盤と駒を見て感じた日曜日の夜である。