ルピナスとラスクでヒュゲなひと時

 森に囲まれた里山ソムリエな日々
里山でラスクを頂きながらあんなこと、こんなことおしゃべりする、そんな時間が届きますように。

ルピナスとラスク

 デンマークで暮らしあと、間もなくしてはじめた山形での暮らし。北欧デンマークと東北山形はときどき錯覚におちいってしまうほど、植生や暮らし方に共通点がありました。

デンマーク語に「HYGGE(ヒュゲ)」という言葉があります。これは他の言語にぴったりと訳すことのできない「温かくてくつろいだ居心地のいい時間」を表します。

 私がこの言葉に初めて出会ったのは、デンマークに家族で到着した3月の終わり、気温はまだ肌寒い13度だったことを覚えています。その冬、大病をした娘を連れてのデンマーク赴任は不安だらけでした。冷たい風が吹いても小さな娘を抱きかかえ、いつも体温計を持ち歩き、気温にも体温にも敏感でした。

 そんな折、デンマーク工科大学の先生がご自宅に私たちを招いてくれました。暖かいストーブの火とテーブルの上にはキャンドルの灯り、美味しいものを頂きながらの楽しい会話は今でも覚えています。

忙しい職業を持つご夫妻なのに、二人の口から飛び出す会話は、ワクワクすることばかりでした。ヨットを借りて海を航海したことや、ピクニックにおすすめの場所やバスケットのこと、ストーブの薪ひろいをしながらの森の散歩のことなどなど。

そして、キャンドルの灯をみながら、こんな時間をデンマーク語でヒュゲ(hygge)ということを教えてくれました。最初に覚えたすてきなデンマーク語ヒュゲ(居心地の良い時間)は、山形の暮らしでもよく思い出します。

 大好きなルピナスも、北欧でたくさん出会った花、この辺りでは「登り藤」という名前で呼ばれています。デンマークでも山形でもルピナスが咲くのは初夏です。一足先に鉢植えのルピナスを日差しのあたる窓辺において、ヒュゲなひと時をすごしました。ラスクに差し込む日の光にヒュゲを感じます。

バスケットを持って森のとっておきの場所へ イラストJ.Kikuchi

 和風のかごというと、竹で編んだものが思い浮かびます。里山に暮らしていると、暮らしの道具として使われてきた箕(穀類をふるってごみをのぞくもの)や背負子(背中に背負うかご)水きりざるなどの古い竹細工に出会います。

ある時、農家のお宅を訪ねると、出前に使われるおか持ちのような形をした竹かごが置いてありました。じっと見つめる私に、「これはべんとづかいに使ったかごだよ」と、その家のご主人が笑って教えてくれました。

「べんとづかい」とは、山形県の置賜地方の方言で、お弁当をもって出かけることです。東洋でも西洋でも、かごに美味しいものを入れて屋外にでかけることは、楽しみなのですね。

 ところで、西洋で使われる丈夫なかごの多くは、紅籐とよばれる籐で編まれています。ワインのボトルを4本も入れても持ち運べるワインバスケットや重いお皿、グラスやポットを入れて運ぶバスケットも紅籐で編まれています。

 ちょうど日本の古い日用品屋さんのように、紅籐のバスケットがたくさん並んだお店がヨーロッパの街角にはあります。デンマークで暮らした頃、バスケットのお店をしょっ中のぞき、そのうちお店でバスケットをいっしょに編ませてもらいました。

硬い紅籐は、きつく編んでいくのが難しく、いろいろな道具に助けてもらっても手は傷だらけになりました。でもその時のバスケットたちが、今も山形で現役です。

 子育ての真っ最中は、ワインを飲むことも忘れていましたが、年を重ね、いい色になった紅籐のバスケットを持って森にでかける時、懐かしくて新しいそんなラスクもいっしょに連れて行きます。楽しいおしゃべりををラクスと一緒に。