「はんなり」と「おしとやか」

「はんなりと おしとやか」
まさにそんな言葉がしっくりとくる佇まいだった。先日仕事で舞子さんの踊りを拝見する機会があった。
先輩芸妓さんの唄と太鼓に合わせ、つま先から指先まで神経を集中させて舞う姿は息を呑む美しさだった。

特別な場所で特別な時間を過ごしている異次元の文化を堪能する機会などそう簡単にはないが、ここには単に特別というだけではない生きた文化を感じることができた感覚だった。

「舞子」と言うと、やはり華やかに彩られた歴史を誇る花街・祇園などを歩く京舞子をイメージする。
煌びやかに着飾り、美しさ、優雅さを日々競いながらも若くして伝統を重んじ華やかな世界で生きる舞子さん。そんな文化が山形にもあることを知ったのはここ3年くらいだ。

中にはこういった伝統芸能があることを知らないという人もまだいるかもしれない。
山形は紅花商人の昔から、最上川によって京都・大阪との交流交易が発展し、もてなし文化が栄えてきた。

そのため、山形には長い歴史の中から生まれたすばらしい伝統芸能が数多く伝承されており、なかでも山形芸妓は山形を代表する伝統的な芸能を語り継いでいた。

しかし、最盛期の大正から昭和初期には150名以上いた山形芸妓も、時代の変遷とともに減少し、深刻な後継者不足に悩まされていたという。

地域の文化が衰退するのは致仕方ないことだし、今時芸妓・舞子文化を嗜むなど、娯楽が発達した昨今では時代錯誤にもほどがある。といわれても納得をせざるを得ないような世の中だ。

しかし、この文化・伝統芸能をを次代に受け継いでいくべきと奮起したのが、地元企業の有志だ。
伝統芸能後継者育成のため「やまがた舞子の会」が設立し、現在は試験で選ばれた若いやまがた舞子が伝統芸能後継者として、日々踊りや唄、三味線などの特訓を受けながらお座敷に出て活躍しているのだ。

現在は6名のやまがた舞子が県内のお店でお座敷を華やかに彩っている。
敷居が高いイメージがあるお座敷遊びだが、そんなことはない。お座敷遊びは舞子さんとお客さんをつなぐ大切なコミュニケーションツールだ。

優しく丁寧に教えてくれる舞子さんの振る舞いに、お酒以上に酔ってしまう(笑)
デジタルな世界が当たり前の時代に、一方的に面白さを強要されるのではなく、会話とその場の雰囲気で楽しさを共有できるのが、お座敷文化の魅力のひとつなのかもしれない。

実際に舞子さんと話しをしてみると、とても可愛らしい。
やまがた舞子を見てあこがれた。恩師の先生の薦めで。など舞子の道へ進んだきっかけは様々だが、その根底には「山形が好き」という温かい地元愛が溢れているのだ。

20歳そこそこの若い娘が、厳しい芸事の道を選んだというのには並大抵の覚悟がなければ続けられないということくらい、普段「我慢強い・忍耐強い」という言葉とは縁遠い私にも容易にわかる厳しい世界だ。

しかし、その美しく・穏やかな笑顔で山形の魅力を発信している舞子さんたちの穏やかで慎ましい振る舞いと優しい笑顔、今日出会った人たちとの時間を大切にしたいという思いはまさに何ものにも変えがたいおもてなしだ。

伝統を受け継ぐことと新しい文化を入れることは一見相反するように思うが、伝統には長い歴史の中でそれに携わってきた数多くの先人たちの知恵、技術、熱い思いが含まれている。

新しいものを取り入れるにしてもそれまで培ってきた歴史を理解し、それを土台に上乗せしていかなければ長続きはしない。
私の好きなシベールのラスクにもまさにその精神が存在している。山形生まれ、日本のスイーツとしてラスクを作るためにフランスパンを焼く。という新しい挑戦は、これまでの職人たちの思いをよりどころにし、既存の精神を重んじてきたからこそできる強さだ。

その強さと誇りが山形を代表する日本のスイーツとして多くの人に愛され続けている理由なのかもしれない。

「はんなりと おしとやかに」

ゆっくりと流れる午後のひとときに、丁寧に作られたラスクを口に運びながら、美味しいものを美味しいと感じることのできる日常に今日もまた幸せを感じるのである。